【目次】
第1章 遺言書の作成
3.遺言書作成の流れ
4.遺言能力
第2章 遺言書を作成するときの検討事項
1.遺言の3つの効力
2.その他の遺言事項
4.遺留分の検討
5.遺言の撤回・変更
第3章 遺言の種類
1.自筆証書遺言
2.公正証書遺言
3.秘密証書遺言
第4章 遺言書保管制度
第5章 遺言書作成における税法上の留意点
第6章 遺言書の内容を実現するための方法
2.改正法の注意点

第1章 遺言書の作成
遺言とは、亡くなった人が相続人の遺産分割を円滑に進めることができるように、遺産に関する指示を遺した最後の意思表示です。遺言書は、作成すること自体がゴールではなく、相続発生後、実際に手続きに使うためにつくるものです。
国の基本方針としても遺言書の作成を重視しており、相続法の改正においても自筆証書遺言の作成が簡便化され、法務局保管制度が創設されました。
遺言には、亡くなった被相続人の生前の思いを相続人たちに伝えることによって、被相続人の気持ちを汲んでもらって相続紛争を少しでも防止するという事実上の役割が期待できます。
1.遺言とは
遺言とは、被相続人の最終の意思表示のことをいいます。
遺言は、被相続人となる遺言者が、遺産の承継等について、自分の意思を反映させるために取り得る唯一といってよい方法です。
「遺言」は、日常的には「ゆいごん」と読まれますが、法律上は「いごん」と読みます。
ただ、自分一人で安易に作成した遺言書は、無効になるリスクを多大にのこします。「無効な遺言書」「有効か無効か判断に迷う遺言書」をのこせば、のこされた家族に精神的にも金銭的にも負担をかけてしまうことになります。
「遺言」があることによって、相続人である子どもたちが争うようなことになっては、元も子もありませんので、遺言を作成する場合には、どうしてそのような遺産分けをするのかが相続人に分かるような説明(付言事項)も書いておくべきですし、法定相続人の遺留分を甚だしく侵害しない内容の遺言を作成すべきです。
2.遺言を書いた方が良いケース
「うちには財産がないし、家族もみんな仲良しだから遺言書は必要ないよ」と思っている方は多いかもしれません。ただ、現実には遺産相続争いは甚大な財産をもっている家だけの話ではなく、ごくごく普通の一般家庭に起こっているのです。
昭和22年までは、長男が家督のすべてを引き継ぐという法律(家督相続)でしたが、現在の民法では遺言書がないと、相続人が話し合いで分け方を決めなければなりません。
【遺言の必要度チェックリスト】
☐独身で子どもがなく、親か兄弟姉妹が相続人になるor親も兄弟姉妹もいない
☐結婚しているが子供がなく、配偶者と親か兄弟が相続人になる
⇒配偶者がいても子供がない場合は、相続権は配偶者と実親もしくは兄弟となります。配偶者が、それら推定相続人と遺産の話し合いをするのは容易ではありません。
☐先妻、先夫の子どもと後妻、後夫の子ども、認知した子供がいる
⇒ 普段から交流のない異母兄弟は複雑な思いを抱えている場合もあるので、遺産分割の話し合いも一筋縄でいかないことが多いです。
☐子どもや兄弟姉妹が先に亡くなり、代襲相続人がいる
☐家族間ですでに争いを抱えていたり、対立している状況がある
☐相続人に特定の財産を与えたい場合や与えたくない場合
☐同族会社や個人事業者で、後継者に財産を与えたい
☐相続人以外の人に財産を渡したい 例)相続の権利のない孫に遺贈したい
☐相続人に障害をお持ちの方がいる
☐推定相続人の一人と同居
⇒最も身近に起こり得るパターンです。遺産のメインが推定相続人の一人と同居していた自宅となると、ほかの兄弟とうまく分割できず、家を売りに出さざるをえない結果になってしまうかもしれません。
3.遺言書作成の流れ
(1)遺言書の作成フロー
- 財産を把握し、財産リストを作成します
・不動産
⇒昔に山林を買ったなどの記憶があれば、その土地の所在地の市町村役場に問い合わせて、評価証明書を取得するとよいでしょう。
・預金
・有価証券
・その他 - 法定相続人、法定相続分、相続割合、遺留分を把握します(場合によっては相続税、贈与税の把握)
・法定相続分・・・遺言がない場合に法律がどのように相続割合を決めているか。
・遺留分・・・各相続人に最低遺すべき相続割合が決められています。
・相続税、贈与税・・・相続税は一括払いが原則です。相続税を払える程度の金融資産を追加で渡してあげるなど、配慮する必要があります。 - 誰に何を承継させるかを決めます
・遺言執行者も決めたほうが良いです
・ご自身の意思が一番重要です(誰に何を渡したいか、まずは想いのままに検討する)
・遺留分を侵害しないか検討する
・「想い」の部分は遺言書の最後に「付言」として記載します。
・農地法など、諸法令上問題がないか検討する - 遺言書の形式を決定(公正証書、自筆証書、秘密証書)
・それぞれにメリット、デメリットがございます。
(2)必要な書類
・遺言書を作る人の戸籍謄本
・財産を受ける人が相続人の場合・・・その方の戸籍謄本
・財産を受ける人が相続人以外の場合・・・その方の住民票
・財産を把握るための書面・・・不動産の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、預貯金を特定するために必要な資料(通帳等)
4.遺言能力
認知症の場合
認知症であることが遺言能力がないことには直結しませんので、認知症であってもその遺言者の作成時点ごとに判断力や遺言時の状況等に照らして、個別具体的に遺言能力の有無を判断することになります。
無理をして複雑な遺言をしてもらったせいで後から無効と言われてしまっては、遺言者の意思を反映できなくなってしまいます。判断能力が弱くなっている遺言者に遺言を作成してもらう際には、特に遺言者本人にしっかり理解してもらった上で、判断能力があったという証拠を残しながら遺言を作成することが大切です。
第2章 遺言書を作成するときの検討事項
遺言の内容が実現されるときには、すでに遺言を作成した被相続人(遺言者)は亡くなっていますから、遺言者がどのような意図をもってその内容の遺言書を作成したか知るためには、基本的には遺言の文面だけに頼ることになります。
このように、遺言はその有効性等を作成した本人に直接確認できないことから、有効になるための要件を法律で厳しく定め、またどのような遺言書の内容であれば法的に有効な意味を持つかを特別に規定しています。この遺言書に書くことで法的な意味を持つ事柄を「遺言事項」といいます。
1.主な3つの遺言事項
(1)遺産分割方法の指定
遺産分割の方法の指定については、どの財産を、誰に、どのくらい相続させるかを決めることができます。財産をひとつずつ挙げていき、それを誰に相続させるかを指定することになります。
例)千葉県〇〇市△△△△の土地及び同地上の建物を長男Aに相続させる。
預貯金はすべて妻Cに相続させる。
(2)相続分の指定
相続分の指定は、誰に、相続財産をどれだけ相続させるかという割合を指定することです。
例)長女Aの相続分を3分の2,長男Bの相続分を3分の1とする。
(3)財産の遺贈先の指定
遺言者は、法定相続人とならない孫等の親族や第三者、団体等に対し、相続財産を遺贈することができます。遺贈とは、相続人以外の人も含めて特定の財産を渡すことで、相手の承諾を要しない点などが贈与とは異なります。
例)公益社団法人〇〇に、現金1,000万円を遺贈する。
- 遺言書に書いてない財産が見つかった場合は?
-
記載されていない財産の分け方について、別に遺産分割協議で分け方を決めます。その協議でトラブルになることがあります。そのようなトラブルを避けるために、遺言者は、「遺言書に記載されていない財産については、配偶者に相続させる」といった一文を入れておくといいでしょう。
2.その他の遺言事項
(1)相続に関する事項
①相続人の廃除及びその取り消し
相続人に虐待等の法定の廃除事由がある場合、遺言者は生前に自ら又は死後遺言によって、その相続人を相続人から除く廃除の申立てを行うことができます。
ただし、廃除が認められても、廃除された元相続人に子供がいる場合は、その子に代襲相続されますので、ご注意ください。
②祭祀主催者の指定
③特別受益の持ち戻しの免除
④遺産分割における担保責任
⑤包括遺贈及び特定遺贈
⑥遺言執行者の指定又は委託
不動産の登記の変更や預貯金の解約・分配等の手続きが必要となることがあります。遺言者は、遺言によってこのような手続きを実際に行う者を遺言執行者として指定することができます。
⑦配偶者居住権の設定
ただし、配偶者居住権の施行日(令和2年4月1日)前に書かれた遺言の場合には、遺言に配偶者居住権の遺贈について記載しても配偶者居住権を設定できません。また、配偶者居住権に関する遺言を作成する場合は、必ず施行日以後に作成したうえで、「相続させる」ではなく「遺贈する」という文言を使うようにしてください。
(2)親族に関する事項
①非嫡出子の認知
非嫡出子の認知とは、故人にいわゆる隠し子がいた際に、その子を法定相続人に加えることができるというものです。認知が行われることによって、遺言者は認知した子を正式な自分の子として相続人に加えることができます。
②未成年後見人等の指定
残された子が未成年で、遺言者が死亡することによって親権者がいなくなる場合等は、遺言によって未成年者の後見人や後見監督人になる第三者を指定することができます。
(3)その他の事項
①一般社団法人・一般財団法人の設立
②信託の設定
③保険金受取人の変更
- 遺言で離婚はできる?
-
「死後離婚」という言葉から、遺言書で離婚ができると勘違いしてしまいがちですが、遺言書での離婚は不可能です。
■遺言書でできる身分行為、できない身分行為
できるもの | できないもの |
・子の認知 ・未成年者の後見人の指定 ・後見監督人の指定 | ・結婚 ・離婚 ・養子縁組 ・養子との離縁 |
3.遺言を書くときのポイント
(1)問題のない遺言書を作るには、書き方などの形式的な要件を満たすのみでは足りません。これに加えて、
・実際に相続が起きた後、作成した遺言書がどのように使われるか
・財産をのこされた人が何をしなければいけないのか
・遺書書を作った後で状況が変わったらどうなるのか
・のこされた家族が遺書書を見たときにどう感じるのか
・預貯金については金融機関名・支店名・「普通預金」「定期預金」等の種類、口座番号を記載し、特定できるようにしてください
・包括遺贈の場合、原則として遺産分割協議書を必要とするので注意
などなど、多岐にわたる検討が必要です。
(2)「付言」の重要性
遺言書には、「付言」といって、想いを書くことができます。付言には法的効果はなく、付言がないからといって遺言書の効力に問題が生じるわけではありません。しかし、遺言書を作る際には、ぜひこの付言も書いてほしいところです。
・なぜ遺言書をつくろうと思ったのか
・自分の無きあと、皆にどう暮らしていってほしいのか
・なぜこのような内容にしたのか
・のこされる大切な人たちに伝えたい感謝の想い
(3)遺言書で、渡す財産を指定する方法
①包括遺贈・・・「3分の1」「3分の2」など、割合でして指定する方法
②特定遺贈・・・財産を特定し、それぞれについて渡す相手を指定する書き方
遺言書を作成する際は、記載の簡単さや、形式面のみに着目するのではなく、作成した遺言書を使って実際に手続きをする際の流れまで想定し、内容を検討するようにしましょう。
・「財産は不動産だけ」というケースは稀
とはいえ、全部の財産を一つ一つ明記するのは現実的でないので、そのような細かい財産をまとめて、「上記に記載のない財産はすべて、長男〇〇に相続させる。」等の一文を入れておくと安心です。
やはり、遺言書を作成する際は、財産の全体像を見たうえで、それぞれの財産の行き先を明記することをお勧めします。
(4)予備遺言
財産を渡す人が遺言者よりも先に亡くなると原則、渡すと記載されていた財産は「書かれていなかった」のと同じになります。
遺言者の立場からすれば、自分より先に自分の子が亡くなってしまうことなど想像もしたくないことかと思います。しかし、問題のない遺言書をつくるにあたっては、このような「万が一」に備えた記載が不可欠です。
このように、財産を渡すと書いた相手が遺言者より先に死亡した場合に備えて、次の候補者を定めておく記載を、「予備遺言」と言います。
4.遺留分の検討
遺留分制度とは
遺留分を有する一定の相続人に対し、被相続人が有していた相続財産の一定割合を「遺留分」として、最低限保障する制度です。
遺留分を有する相続人は、被相続人から相続によって受ける相続利益が、被相続人の遺贈または贈与の結果、その相続人の遺留分に満たない場合には遺留分が侵害されたとして、その相続人が、受贈者又は受贈者等に対して権利を行使することで、侵害された遺留分を回復することができます。
この遺留分権の金銭債権化により、たとえば土地建物や自社株がある場合に、遺留分権が行使されても共有とならずに済むようになったため、故人の意向に沿った事業承継を実現しやすくなったといえます。
- 遺留分を侵害する遺言を作成しても良いのか?
-
税効果や事業承継等を考えてどうしても書きたい内容の遺言があるけれども遺留分を侵害してしまう、という場合にはその遺言を作成してしまって構いません。
遺留分を侵害する遺言書を作成する場合は必ず、万が一遺留分侵害額請求された場合に備えて、遺留分の返還に備えた金融資産も準備しておいてください。返還に備えたお金の準備には、生命保険を活用することも一つの方法です。
5.遺言の撤回・変更
- 遺言の変更はどうやって行う?
-
遺言は最も新しいものが優先されますので、作成した遺言を変更する場合は、新たに遺言を書き直すか、作成した遺言自体を変更する方法があります。
注意すべきなのが、この変更方法に不備があると変更はないものとして扱われるので、遺言は変更前の内容となります。
変更される際は、事務所にお問い合わせいただければと思います。
- 遺言書は作ってしまったら撤回はできないのか?
-
できます。
自筆証書遺言の場合は破棄すれば撤回できますが、公正証書遺言の場合は原本が公証役場に保管されることになるので、撤回する場合は、新たに遺言書を作成する必要があります。
自筆証書保管制度を使用していた場合、保管を撤回したうえで破棄することになります。
第3章 遺言の種類
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
実際に作成されているのは自筆証書遺言か、公正証書う遺言が大半です。
自筆証書遺言(改正前)、自筆証書遺言(改正後)、公正証書遺言の比較
自筆証書遺言 | 自筆証書遺言 (改正後) | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
作り方 | 遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印する | 基本自筆だが、財産目録はパソコン作成や通帳の写し等でも可能 | 公証役場にて、公証人に口述し作成してもらう (証人2人必要) |
費用 | かからないウ | 公証人への手続き費用 (3~10万程度) | |
保管方法 | 本人及び知人など | 法務局で保管できる | 正本、謄本は本人の手元に。原本は公証役場で保管。 |
内容の正確性 | 遺言者の知識次第 | 遺言者の知識次第 | 法律のプロが作るため正確でいが高い |
- 遺言の作成方法によって優劣はあるのか?
-
遺言は作成方法による優劣はありません。
- 遺言と遺産分割の関係は?
-
遺言が存在する場合でも、すべての相続人と受遺者が合意をすれば、遺言とは異なる方法の遺産分割等を行うことができます。しかし、関係者全員では納得ができず、全員が合意できる分割内容がないのであれば、結局は遺言に従った分割をすることになります。
1.自筆証書遺言
文字通り、手書きの遺言のことを言います。テレビドラマとかで自筆で1人で書いているのがこちらのイメージです。
遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する厳格な遺言でした。
(1)自筆証書遺言のメリット・デメリット
いつでも作成可能なので、他の方式と比べると費用もかからず手続きも一番簡単です。また、作成が自分1人で可能なので、遺言内容を他人に秘密にしておけるという長所もあります。しかし、反面、法定要件不備のために無効となる危険性があります。
(2)自筆証書遺言の方式の緩和(平成31年1月13日)
相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書でなくても良いとされました(968条第2項。)
(3)自筆証書遺言でチェックしておきたい主なポイント
□表題は「遺言書」と表記してあるか
□財産目録以外はすべて自筆で書いているか(改正点)
□遺言者の氏名がきちんと書いてあるか
□押印してあるか
□日付が正しく書いてあるか
□不動産の表記は登記簿謄本どおりに書いてあるか
□預貯金は金融機関名・支店名、普通預金や定期預金などの種別、口座番号が正確に書いてあるか
□財産目録の前ページに署名・押印がしてあるか(改正点)
□封筒に遺言者の氏名が書いてあるか
□封筒に入れて封印してあるか
2.公正証書遺言
従来、司法書士がお勧めしていた方式が、公正証書遺言です。
公正証書遺言は、遺言者だけでなく公証人役場にも保管されるので、紛失や偽造のおそれのない一番確実な方法だからです。
作成・保管ともに専門家である公証人がやってくれるので、効力を争われる危険性が低く、法的にも最も安全・確実で、後日の紛争防止のためにも一番望ましいと考えられています。
作るときには費用がかかりますが、他の遺言(自筆証書遺言を除く)と違って、実際に相続の段階に入ったときは検認という裁判所が絡む手続きの必要がなくなります。
ただ、自筆証書遺言の方式が緩和されたことにより、自筆証書遺言の利用が増えるかもしれません。
(1)公正証書遺言の作成をお勧めする場合
・費用よりも遺言の確実性を重視される方
・自筆する自信がない、あるいは自筆は面倒
・自分一人で法務局に行って手続きするよりは、証人(当職など)と共に公証役場に行く方が良い方
なお、公正証書遺言を作成する際には、相続時にトラブルが起きづらいような記述で作成できるように公証人がアドバイスをしてくれることもあります。そのアドバイスというのは、「内容をこうした方がいい」というものではなく、あくまでも「その内容であれば、こういう記述にしたほうがいい」というアドバイスです。
(2)公正証書遺言の作成の流れ
- お問合せ(電話等)
・面談の日時をご案内いたします
・ご持参の書類を案内いたします - 面談(ご来所)
・本人確認及び遺言能力の確認のため、1回は事務所にご来所いただきます
・作成したい遺言の内容をお伺いします
・それを基に当事務所が遺言の叩き台を作成いたします - 遺言内容のご確認、修正(ご来所か電話、メール)
・当事務所が作成した遺言をご確認していただきます
・よろしければ当事務所が公証人との交渉に進みます - 必要となる書類の準備(ご自身か当事務所)
・遺言の最終確認までに印鑑証明書や戸籍謄本などの公的な書類を集めます
・通常は、ご自身で取得されます - 公証人との打ち合わせ
・当事務所が行います
・公証人役場の日時が決まります - 当日(公証人役場)
・ご本人と証人2人が公証役場に集まり、公正証書遺言を作成いたします
・通常は1時間かからずに終わります
・この日に費用をお支払いいただくのが簡便です
まとめますと、事務所へは1~3回、公証人役場へは1回、市役所に1回をご自身で行かれるのが標準になると思われます。
(3)作成時に必要なもの
・遺言者の印鑑登録証明書
・遺言者と相続する人の関係がわかる戸籍謄本
・土地建物の登記簿謄本
・土地建物の固定資産税納付通知
・預貯金、有価証券などの明細を記載したメモ
- 公正証書遺言は誰が保管するのか?
-
公正証書遺言は、通常、原本の他、正本・謄本の合計3通が作成されます。原本は公証役場で原則20年間保管されます(公証規27)。正本は遺言執行者が執行のために保管し、謄本は遺言者が保管するのが通常です。
(4)費用
公正証書作成手数料
遺言書に記す財産の合計額 | 手数料 |
100万円まで | 5000円 |
200万円まで | 7000円 |
500万円まで | 1万1000円 |
1000万円まで | 1万7000円 |
3000万円まで | 2万3000円 |
5000万円まで | 2万9000円 |
1億万円まで | 4万3000円 |
※₁1億円超3億円まで | 5000万円ごとに1万1000円加算 |
※証人を紹介してもらう場合の謝礼金 証人1人につき5,000~1万5,000円程度
公正証書遺言作成の費用の計算は少し難しいのですが、上表にあてはめて、「渡す相手」ごとに計算をします。
- 確実に公正証書遺言を選んだ方が良い人は?
-
障害を有する人の利用は多いといえます。自筆証書遺言とは異なり、遺言者が自筆する必要がないからです。
また、単純に自筆に自信がない、面倒という理由で公正証書遺言を選択される方もいらっしゃいます。
- 公正証書遺言は作るときに費用がかかる以外は欠点はないのか?
-
公正証書遺言の欠点といたしましては、遺言の内容を少なくとも3人に知られてしまうということです。3人の内訳は1人は公証人、その他2人は証人です。
公証人は信頼できるとして、証人2人をどう選ぶかは問題となります。証人として立ち会える人も厳格に限られています。例えば、相続人が証人になってしまったらおかしいことはお分かりだと思います。
信頼のできる証人が思い当たらないといった場合でも、当事務所で証人をご用意することもできますのでご安心ください。
(5)公正証書遺言の証人になることができない者
①未成年者
②推定相続人及び受遺者ならびにこれらの配偶者及び直系血族
③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
3.秘密証書遺言
遺言については相続発生時まで一切秘密にしたいという人もいます。そのような人が書く遺言書が、秘密証書遺言です。
自分で遺言を書いて封をした後に公証人と証人2人以上の前に差し出します。遺言内容を知られずに済む、偽造・隠避の防止になる、遺言書の存在を遺族に明らかにでき、発見されないリスクがなくなるといった長所があります。
反面、自筆証書遺言と同様、内容に関して専門家のチェックを受けるわけではないので不備があれば無効となる危険性があるほか、本当に遺言を書いた方の意図通りの内容が実現されるかは保証がありません。
さらに、相続発生後は検認という裁判所の関与も必要になります。
第4章 自筆証書遺言に関する改正
2020年7月1日から、自分で書いた遺言が、法務局で保管してもらえるようになりました。
作成時に法務局で本人確認がされているため、その自筆証書遺言が偽造であるという争いは避けられるとともに、遺言書自体の紛失も起こらないため、自筆証書遺言でありながら安全な制度となっています。
この制度を利用すれば、紛失や偽造などの管理上の心配がなくなるだけでなく、法務局で保管された自筆証書の遺言書は家庭裁判所の検認が不要になります。
これまで馴染みのなかった遺言制度が、一気に利用しやすい制度に変わったのです。
1.自筆証書遺言に関する改正の概要
(1)従来の自筆証書遺言の問題点
・遺言者自身の管理不十分による遺言書の紛失
・相続開始前又は開始後に遺言書を発見した相続人による隠避や変造
・遺言書の発見が遅れたことによる遺産分割のやり直し
・遺言書の存在を知らないまま3か月以内に相続の承認又は放棄の選択を迫られる相続人の不利益
従来も自筆で遺言を書かれる方はいらっしゃいました。ただ、それらの多くは法律的に無効であったり、封がしてなかったり、封はしてあっても遺言と書かれていないがために遺言と気づかれないことがありました。
そこで、自筆証書遺言を確実に保管し、相続人がその存在を把握することのできるようにするために「法務局における遺言書の保管等に関する法律が」制定されました。
(2)遺言書保管制度の対象となる遺言
- なぜ秘密証書遺言は補完制度の対象となっていないのか?
-
秘密証書遺言は、証書を封じることにより他人に遺言の内容を知られないことが最大のメリットである(第970条第1項第2号)から、無封の遺言書を提出させて画像情報を遺言書保管ファイルに記録する仕組みとは相いれない性質のものだからです。
2.財産目録の作成方法
相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録においては、自筆でなくてもよくなりました。(第968条第2項)。自筆証書遺言の利用を促進するためです。
パソコン等による作成が認められることはもとより、遺言者以外の者による代筆、さらには、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳の写し等を添付し、それを目録として使用する方法によることもできることになりました。
ただ、財産目録を自書以外の方法で作成する場合には、毎葉への署名押印などの方式に従わなければなりません。自筆要件を緩和することによって想定される偽造、変造を防止する趣旨です。
3.遺言書保管制度のメリット
①紛失してしまうことを防げる
②誰かが書き換えてしまうことを防げる
③家庭裁判所による検認も不要に
④相続登記などもスムーズに
改正前は裁判所への検認が必要でした。ただ、その手続きを行う相続人の方は少ないという現実がありました。
家庭裁判所に検認の請求をするためには、申立書を用意し、管轄の家庭裁判所に提出しなければなりません。その際は、「遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本」などが添付書類として必要であり、結構な労力がかかります。
このような大変な手続きが、遺言書保管所で保管してもらった遺言書では、不要になるのです。
4.遺言書保管制度の手続き
(1)申請の方法
管轄権を有する遺言書保管所で、遺言書保管官に対して行います。
- 郵送による申請、代理人により申請はできるか?
-
いずれもできません。
他人が遺言者になりすまして虚偽の申請を行うことを防止するために、遺言書保管所窓口で遺言書保管官による厳格な本人確認を行う必要があるからです。
- 他に遺言者自ら遺言書保管所に出頭することを要する手続きはあるか?
-
遺言者による遺言書の閲覧請求及び保管の申請の撤回があります。
(2)管轄
ⓐ遺言者の住所地、ⓑ遺言者の本籍地、ⓒ遺言者が有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所のいずれかを管轄する遺言書保管所に、遺言者自らが出頭して行います。
(3)自筆証書遺言保管制度の手数料
申請・請求の種別 | 申請・請求者 | 手数料 |
遺言書の保管の申請 | 遺言者 | 一件につき、3900円 |
遺言書の閲覧の請求(モニター) | 遺言者 関係相続人等 | 一回につき、1400円 |
遺言書の閲覧の請求(原本) | 遺言者 関係相続人等 | 一回につき、1700円 |
遺言書情報証明書の交付請求 | 関係相続人等 | 一通につき、1400円 |
遺言書保管事実証明書の交付請求 | 関係相続人等 | 一通につき、800円 |
申請書等・撤回書等の閲覧の請求 | 遺言者 関係相続人等 | 一の申請に関する申請書等又は一の撤回に関する撤回書等につき、1700円 |
(4)保管されている遺言書に関する遺言者以外の者に対する情報開示
「遺言書保管事実証明書」を取得し、遺言書の存在が明らかになったら、次は「遺言書情報証明書」を取得して内容を確認する流れになります。
ⓐ遺言書保管事実証明書の請求・・・遺言の「有無」を確認できる
遺言者の死亡後、自分を相続人、受遺者、遺言執行者とする遺言書が、遺言書保管所に保管されているかどうかを確認する手続きです。つまり、遺言書の存在を相続人が知らなくても、遺言書保管所で保管された被相続人の遺言書の有無を、相続人が確認できるのです。これは、遺言書の検索制度のような手続きといえます。本請求は、全国どの遺言書保管所でも交付の請求ができ、郵送でも可能です。
- 遺言書保管事実証明書の交付を請求することができる時期はいつですか?
-
相続開始後に限られます。
ⓐ遺言書情報証明書の請求・・・遺言の「内容」を確認出来る
遺言者の相続人等が、遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をする手続きをいいます。これで遺言書の内容が分かるようになるのです。
【遺言書情報証明書と遺言書保管事実証明書の記載事項】
遺言書情報証明書 | 遺言書保管事実証明書 | |
遺言書の画像情報 | 〇 | × |
遺言に記載されている作成の年月日 | 〇 | 〇 |
遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍 | 〇 | × |
受遺者 | 〇 | × |
指定遺言執行者 | 〇 | × |
遺言書の保管を開始した年月日 | 〇 | × |
遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号 | 〇 | 〇 |
遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無 | × | 〇 |
5.遺言書保管官による通知
遺言者の死後、法務局で保管された遺言の存在に誰も気が付かないのであれば、遺言者の最終の意思を尊重することはできません。
このようなことを防ぐため、遺言者の死後に、指定する者に対し、法務局から遺言書が保管されていることを通知してもらうことができます。
簡単に申しますと、遺言者の死後に、特定の者に遺言者が死亡した旨と、法務局で遺言書が保管されている旨のお知らせが届くように設定することができるのです。
6.遺言書の保管制度を利用する際の注意点
①自筆証書の遺言書が遺言書保管所で保管されたからといって、必ずしもその遺言書が有効とは限りません。
②遺言書保管所で保管してもらった遺言書が有効だとしても、自筆証書であることから、死後の手続きがスムーズに進まないことも考えられます。
第5章 遺言書作成における税法上の留意点
1.まず検討すべきこと
①もし現時点で亡くなったとした場合に子ども達にかかる相続税額の試算を行う
②相続で財産を受け取る人がそれぞれ相続税を支払うだけのお金はあるのか
③相続税の節税手法を検討する
④上記①~③を考慮して遺言書の作成を行う
(1)自社株がある場合
・会社の株価はもうかっているかどうかだけできまるわけではない
・非上場企業が自社株の評価額を知ると高額な評価に驚くケースが少なくない
・オーナーが会社に貸し付けをしている場合、それも相続税の計算対象になる
相続税の計算上、オーナー株主が持っている株の評価には、「純資産額方式」と「類似業種比準化方式」の2つの方法があり、企業の規模によって、これらを組み合わせて計算します。
このうち、「類似業種比準化方式」は、大まかに言えば、自分の会社が類似した業種で上場している会社と配当金額や利益金額、純資産額がどれくらい多いかを比較して株価を計算する方法です。
一方、「純資産額方式」は、会社の純資産額から株価を計算する方法です。このとき、単に現状の財務諸表の純資産を見るのではなく、含み益まで計算されてしまう点がポイントです。漠然と、「大した価値はない」などと思っていると、いざ相続が起きた後で多額の相続税がかかってしまい、後継者を困らせる危険性があるのです。
また、遺言書を作成する中で、会社の後継者である長男に対して、「会社への貸付金もそうぞくさせる」と指定しておくとよいでしょう。
(2)配偶者に全財産を相続させる場合の注意
「配偶者が預貯金をかいやくしやすいように」「海外にいる子どもと書類のやり取りをすることがなくなるように」などの理由で、配偶者に全財産を相続させるのは、後になって、本来、無用で済んだ贈与税がかかってしまうことになりかねない。
孫など相続人ではない人に無用な課税を生じさせることなく財産を渡したいのであれば、必ず遺言書へ記載しておきましょう。
第6章 遺言書の内容を実現するための方法
・内縁の妻など、相続人ではない人への遺贈には特に配慮が必要です。公正証書で作成し、信頼できる遺言執行者も選任しておきます。
・遺言執行者の指定とともに、「権限の記載」も入れておくと安心です。
なぜなら、金融機関の内部ルールにより、具体的な職務が明記されていない場合には、遺言執行者のみでは手続きができず、相続人の同意が必要という対応する場合があるからです。
1.遺言執行者を指定しておく
(1)遺言執行
遺言書に書いてある内容を法的に実現すること
- 遺言書の内容には必ず従わなければならないのですか?
-
遺言書は存在しても、すべての相続人等の合意があれば遺言書どおりでない遺産分割を行うことができます。
ただし、遺言に受遺者の指定がある場合に遺言と異なる内容の遺産分割をしたいのであれば、相続人全員だけでなく、受遺者の同意も得る必要があります。
(2)遺言執行者の選任方法
①被相続人が遺言であらかじめ遺言執行者を選任しておく
②相続開始後に相続人らの関係者が家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立て」を行い、裁判所に遺言執行者を決めてもらう
(3)遺言執行の方法
検認又は法務局からの証明書の取得後は相続人全員に対し、直ちに遺言書に遺言執行者として指定されていること、及び実際に遺言執行者になることを承諾するか否かを通知します。
(4)遺言執行者の仕事
・戸籍収集
・相続人・受遺者への通知
・相続財産調査
・財産目録の調整
・遺言書に沿って名義変更
- 特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言に基づいて遺言執行者がその相続人のために相続登記の申請をすることができるようになりましたか?
-
できるようになる可能性があります。
・相続税申告の手続き(必要時)
・経費・報酬清算
- 自筆証書遺言を開封してしまったのだが?
-
開封してしまっても、直ちに遺言が無効になるわけではありません。
ただし、原則は以下の通りです。
◇検認請求義務
遺言書を保管するものまたは遺言書の保管者がいない場合には遺言を発見した相続人は、相続の開始を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に遺言を提出して、その検認を請求しなかればなりません(民1004条①)。遺言書の提出を怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、または家庭裁判所外においてその開封をした場合には、5万円以下の科料に処せられます(民1005条)。
2.改正法の注意点
改正法は、遺言者が、遺言で「不動産はすべて長男に相続させる」と記載していたとしても、次男が遺産である不動産に自己の相続分の共有持分登記をして、この共有持分権を事情を知らない第三者に売却し、その第三者が先に移転登記をした場合には、長男はもはや自分が不動産全部を相続したことを主張しえないとしました。
関連リンク等
引用・参考文献
「遺言書作成マニュアル」/日本法令
「相続と遺言と相続税の法律案内」/幻冬舎
「きちんとした、もめない遺言書」の書き方・のこし方/日本実業出版社
「生前対策まるわかりBOOK」(社)相続遺言生前対策支援機構
「遺言書保管制度の利用の方法」/日本加除出版株式会社
「ゼロからわかる相続と税金対策入門」/あさ出版