相続の放棄

【目次】

1.相続の放棄を検討されるケース

2.相続放棄検討の流れ

(1)相続が開始してからの手続き

(2)3カ月ルールの救済策

3.負債の相続

(1)放棄できなくなる場合に注意

(2)保険金について

4.不動産は資産か

(1)そのまま不動産を相続した場合

(2)更地にした場合

5.相続の放棄をしたものによる管理

 日本の年間死亡者数は年々増加しており、平成27年には約130万人にのぼりました。

 けれでも、決して忘れてはいけないのは、「相続」の対象になるのは必ずしも「資産」=「プラスの財産」だけでない、という事実です。

 相続が発生すると、相続人になった方は、亡くなった方の財産だけでなく借金などの負債も全て引き継ぎます。この手続きをとれば、借金を引き継がないこともできます。

 相続放棄の件数は、平成元年では約4万件だったものが増え続け、現在では約19万件に達しています。公正証書遺言件数が約11万件ですから、それに比べても圧倒的に多いのです。

 ただし、問題は、「相続放棄」ができずに、甚大な負債をそのまま負ってしまう人たちがいるということです。

 実は相続放棄には、申立の期限等の一定のルールがあり、そのルールを満たせずに泣き寝入りしてしまうケースが後を絶たないのです。

1.相続の放棄を検討されるケース

・親が会社を経営している

・親の人間関係を把握していない

・親の資産や負債について把握していない

・実家が持ち家である

・没交渉の親族がいる

・親族に会社を経営している人がいる

・相続について、親や親族と話をしたことがない

 もし、たとえ1つでも当てはまるものであれば、あなたは「負債相続予備軍」だと言えます。

 中小企業の場合、経営者が法人の連帯保証人として入っているケースがほとんどですので、親族の中に会社の経営者がいる場合は特に注意が必要です。

 また、借金の存在は家族のでさえ黙っていることが多いものです。良好な家族関係を保っていた家族の借金でさえ、気づかない方が多いのですから、ましてや音信不通となった家族の借金の存在など知る由もないでしょう。

いくら故人に借金があるとはいえ、相続放棄をしてしまったら故人の妻が住む家が亡くなってしまうのではないですか?

 相続放棄をしてしまうと、確かに借金からは免れられますが、同時に自宅も失うことになってしまいます。

 亡くなった方の妻が生きているうちは自宅を失いたくない場合は、妻以外の者がすべて相続放棄をする方法も考えられます。負債に関しては、債権者との話し合いのうえ、可能な額を少しずつ返済することが考えられます。

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2.相続放棄検討の流れ

(1)相続が開始してからの手続き

  1. 相続開始
  2. 死亡届・埋葬・火葬
  3. 生命保険の請求手続き
  4. 未支給年金・遺族年金受給手続き
  5. 遺言の有無確認
  6. 相続人調査・相続財産調査
  7. 相続放棄・単純承認・限定承認の検討

 個人の遺した財産を引き継ぐのか放棄するのかの手続きをする期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に限定されています。

 相続開始を知ったときから3か月以内に「相続放棄」あるいは「限定承認」の意思表示をしなかった場合は、「単純承認」したものとみなされ、プラスの財産はもちろん、マイナスの財産もすべて相続することになるのです。

 近親者の死後というのはただでさえ、相続以外の手続きにも奔走しなければならないので、正しい相続の知識を持ち、そこに意識を向けていない限り、3か月などあっという間に過ぎてしまいます。

「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」とは具体的に何を知ってから3か月ですか?

熟慮期間の起算点は原則として被相続人の死亡を知り、かつ、相続人になったことを知覚したときですが、熟慮期間が相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべき時に繰り下げられるという判例があります(最判昭和59・4・27民集38巻6号698頁)。

実務では上記判例を踏まえてはいるものの、実際の起算点はケースバイケースで判断されます。

(2)3カ月ルールの救済策

相続開始から3か月過ぎた場合は相続の放棄は一切できませんか?

基本的には相続放棄はできませんが、延長されるケースもございます。

 プラスの財産もなく、かつ、隠れた借金の存在に気付かなかったことにつき、一定のやむを得ない事情があれば、「その負債の事実を知ったとき」から3カ月以内であれば相続放棄の申立てを認めるというのが最高裁の立場です。

 ただ、死亡から3カ月以上が経過したのちに相続財産の存在を知った、という場合は、「やむを得ない事情があり、知る由がなかった」ことを家庭裁判所に認めてもらう必要があります。

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3.負債の相続

遺産分割で不動産の持ち分は放棄しましたが、借金の請求が来ることはないですよね?
 

「相続放棄」と混同されやすいものに「相続分の放棄」があります。
「相続分の放棄」の意思表示をしていても、被相続人の負債が発覚した場合、その負債は放棄しなければならず、債権者の請求があればこれに応じなければなりません。

 遺言や遺産分割の内容は、相続人間においては有効ですが、債権者に対しては拘束力を持たない、ということは意外な盲点となっていますので注意が必要です。

(1)放棄できなくなる場合に注意

 たとえ、「負債の存在は知る由がなかった」としても、不動産なり、預貯金なり、何かしらを相続する手続きをすでに済ませていた場合には、たとえ後から多額の負債の存在が発覚したとしても相続放棄を認めてもらうのは非常に難しくなります。

 つまり、何かを相続している時点で、「単純承認」を積極的に選択したと判断されます。何も手続きをせず3カ月が経過して自動的に単純承認だとみなされた場合とは雲泥の差が生じ、その時点では負債の存在を知り得なかったといくら主張しても、一度選択した単純承認を覆すことはほぼ不可能なのです。

 残念ながら一旦承認した不動産の相続を、その価値の見込み違いを原因としてあとから放棄することは、家庭裁判所ではほとんど認められないのが現実なのです。

全てを相続するか、全てを放棄するしか選択肢はないのですか?

「単純承認」と「相続放棄」の間の選択肢として、実は「限定承認」という手続きがあります。

また、要らない土地を相続の際に手放せる制度も運用される予定です。

相続土地国庫帰属法について詳しくはこちらへ

(2)保険金について

死亡保険金を受け取ったら相続放棄はできませんか?

死亡保険金というのは遺族固有の権利として、相続とは別に受け取れる財産ですので、たとえ、相続放棄したとしても問題なく受け取ることが可能なのです。

 実は、死亡保険金は相続財産ではありません。つまり、相続放棄をしたとしても、保険金は自分のお金として堂々と受け取ることができるのです。

 生命保険金同様に、遺族年金のことを心配する方がいらっしゃいますが、遺族年金というのは、あくまでも遺族に対して支払われるものです。つまりこれも相続財産ではありません。たとえ相続放棄をしたとしても、きちんと支払われますので、心配は不要です。

 相続財産となるのは、あくまでも被相続人が生前所有していたもの。被相続人の死をきっかけに発生したものはそれに当たりませんから、混同しないようにしてください。

 ただ、その場合には、相続税の非課税枠が適用されず、受け取った死亡保険金や死亡退職金に対して相続税が課税されることがあります。

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4.不動産は資産か

 故人には家族でさえ気づいていない借金があるかもしれません。家族も知らないうちに故人は誰かの連帯保証人になっていたかもしれません。相続しようとしている不動産は資産であるどころか、財産を食いつぶす負動産かもしれません。そして今、資産だと信じて相続した不動産に苦しめられる、「不動産相続難民」が急増しているのです。

(1)そのまま不動産を相続した場合

 ⓐ特定空家に指定された場合

 固定資産税の特例というのは、「建物が建っていれば、その土地の固定資産税の税額は200㎡まで1/6、200㎡を超える部分については1/3に減額される」という措置のこと。

 つまり、「特定空家」に指定され、この特例措置が解除されてしまうと、たとえ家屋が建ったままでも、更地と同様の税負担が強いられるというわけです。

 ⓑバブル時代に購入したリゾート地や温泉が出ると期待された山林

 このリゾートマンションを手放さない限り、管理費・維持費、そして固定資産税の支払から逃れることはできないのです。

 ⓒ固定資産税はかからない山林だが遠くて管理ができない土地

 管理していない間に粗大ごみや産業廃棄物を捨てられているというケースがあります。

 ところが、驚いたのがその撤去費用です。産業廃棄物が大量に含まれているため、どう見積もっても1000万円は下らないというのです。

 特に更地の場合は、建物の崩壊等のおそれもなく管理の問題もないと思い込み、そのまま放置している方が多いのですが、実は更地であっても、管理リスクはあるのです。

(2)更地にした場合

 建物が建っていれば、その土地の固定資産税の税額は半額以下に減額される措置が取られるのですが、更地にしてしまうと、その措置が解除されます。

 例えば、200万円ものお金をかけて家屋を解体し、更地にしたことで、なんと、固定資産税の税額が倍に跳ね上がってしまうこともあります。

5.相続の放棄をしたものによる管理

 すでに相続放棄をしていると主張したものの、「たとえ相続放棄をしても相続人に管理義務は残っている」と通告されます。相続放棄をしたとしても、それによって相続人が不在になってしまった場合、法定相続人にはその不動産の「管理義務」が残ることが民法で規定されているのです(民法940条)。そこからも逃れるためには、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

ただしその際、予納金を支払わなければならないことがあります。

 予納金とは、相続財産管理人の経費や報酬に充てるための費用なのですが、都市部の場合、この費用がべらぼうに高く、最低でも100万円くらいかかることが通常で、場合によってはもっと高額になるケースも珍しくありません。

しかも、相続自体は放棄しているので、原則として売却することもできないのです。

6.限定承認を利用するケース

 限定承認は故人の債務が正確には分からない場合に、それをプラスの財産の範囲内で相続したいというケースで使われたりします。

 なお、限定承認を行うと、故人が相続人に対し、財産を時価で売却したものとみなして「みなし譲渡所得税」が課税されます。このみなし譲渡所得税は、相続人が準確定申告を行い、税金を納付します。

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関連リンク

引用・参考文献

身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」がわかる本/ポプラ社

司法書士事務所で無料相談を利用されるときの流れについての動画です。

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