「残された遺産や想いを後世の人たちに伝えたい。」
遺言書は、残された遺族やお世話になった方々へ残す最後の手紙です。相続手続きをする際に、遺言書に沿って故人の遺志を優先することが原則です。
しかし、所定の書き方に沿って書かないと無効になってしまうこともあります。しっかりとあなたの想いが伝えられるよう、注意が必要です。
それでは、効力の持つ遺言書を書くのにはどうしたら良いのでしょうか?
【目次】
第1章 遺言書の作成
3.遺言書作成の流れ
4.遺言能力
第2章 遺言書を作成するときの検討事項
2.その他の遺言事項
4.遺留分の検討
第3章 遺言の種類
1.自筆証書遺言
2.公正証書遺言
3.秘密証書遺言
第4章 遺言書保管制度
第5章 遺言書作成における税法上の留意点
第6章 遺言書の内容を実現するための方法
第1章 遺言書の作成
遺言には、亡くなった被相続人の生前の思いを相続人たちに伝えることによって、被相続人の気持ちを汲んでもらって相続紛争を少しでも防止するという事実上の役割が期待できます。
遺言とは
遺言とは、亡くなった人が遺産に関する指示を遺した最後の意思表示です。
遺言書は、作成すること自体がゴールではなく、相続発生後、実際に手続きに使うためにつくるものです。
「遺言」は、日常的には「ゆいごん」と読まれますが、法律上は「いごん」と読みます。
遺言書を書いた方が良いケース
「うちには財産がないし、家族もみんな仲良しだから遺言書は必要ないよ」
と思っている方は多いかもしれません。
ただ、現実には遺産相続争いは甚大な財産をもっている家だけの話ではなく、ごくごく普通の一般家庭に起こっているのです。
昭和22年までは、長男が家督のすべてを引き継ぐという法律(家督相続)でしたが、現在の民法では遺言書がないと、相続人が話し合いで分け方を決めなければなりません。
遺言能力
認知症であることが遺言能力がないことには直結しませんので、認知症であってもその遺言者の作成時点ごとに判断力や遺言時の状況等に照らして、個別具体的に遺言能力の有無を判断することになります。
第2章 遺言書を作成するときの検討事項
遺言の内容が実現されるときには、すでに遺言を作成した被相続人(遺言者)は亡くなっていますから、遺言者がどのような意図をもってその内容の遺言書を作成したか知るためには、基本的には遺言の文面だけに頼ることになります。
このように、遺言はその有効性等を作成した本人に直接確認できないことから、有効になるための要件を法律で厳しく定め、またどのような遺言書の内容であれば法的に有効な意味を持つかを特別に規定しています。この遺言書に書くことで法的な意味を持つ事柄を遺言事項といいます。
- 遺言で離婚はできる?
-
「死後離婚」という言葉から、遺言書で離婚ができると勘違いしてしまいがちですが、遺言書での離婚は不可能です。
■遺言書でできる身分行為、できない身分行為
できるもの | できないもの |
・子の認知 ・未成年者の後見人の指定 ・後見監督人の指定 | ・結婚 ・離婚 ・養子縁組 ・養子との離縁 |
遺言を書くときのポイント
・実際に相続が起きた後、作成した遺言書がどのように使われるか
・のこされた家族が遺書書を見たときにどう感じるのか
・包括遺贈の場合、原則として遺産分割協議書を必要とするので注意
「付言」の重要性
遺言書には、「付言」といって、想いを書くことができます。付言には法的効果はなく、付言がないからといって遺言書の効力に問題が生じるわけではありません。しかし、遺言書を作る際には、ぜひこの付言も書いてほしいところです。
・なぜ遺言書をつくろうと思ったのか
・自分の無きあと、皆にどう暮らしていってほしいのか
・なぜこのような内容にしたのか
・のこされる大切な人たちに伝えたい感謝の想い
遺言書を作成する際は、記載の簡単さや、形式面のみに着目するのではなく、作成した遺言書を使って実際に手続きをする際の流れまで想定し、内容を検討するようにしましょう。
とはいえ、全部の財産を一つ一つ明記するのは現実的でないので、そのような細かい財産をまとめて、「上記に記載のない財産はすべて、長男〇〇に相続させる。」等の一文を入れておくと安心です。
予備遺言
財産を渡す人が遺言者よりも先に亡くなると原則、渡すと記載されていた財産は「書かれていなかった」のと同じになります。
遺言者の立場からすれば、自分より先に自分の子が亡くなってしまうことなど想像もしたくないことかと思います。しかし、問題のない遺言書をつくるにあたっては、このような「万が一」に備えた記載が不可欠です。
このように、財産を渡すと書いた相手が遺言者より先に死亡した場合に備えて、次の候補者を定めておく記載を、「予備遺言」と言います。
遺留分の検討
遺留分制度とは、遺留分を有する一定の相続人に対し、被相続人が有していた相続財産の一定割合を「遺留分」として、最低限保障する制度です。
遺留分が侵害された場合、その相続人が、受贈者又は受贈者等に対して権利を行使することで、侵害された遺留分を回復することができます。
第3章 遺言の種類
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言(改正前)、自筆証書遺言(改正後)、公正証書遺言の比較
自筆証書遺言 | 自筆証書遺言 (改正後) | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
作り方 | 遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印する | 基本自筆だが、財産目録はパソコン作成や通帳の写し等でも可能 | 公証役場にて、公証人に口述し作成してもらう (証人2人必要) |
費用 | かからないウ | 公証人への手続き費用 (3~10万程度) | |
保管方法 | 本人及び知人など | 法務局で保管できる | 正本、謄本は本人の手元に。原本は公証役場で保管。 |
内容の正確性 | 遺言者の知識次第 | 遺言者の知識次第 | 法律のプロが作るため正確でいが高い |
自筆証書遺言
文字通り、手書きの遺言のことを言います。テレビドラマとかで自筆で1人で書いているのがこちらのイメージです。遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する厳格な遺言でした。
いつでも作成可能なので、他の方式と比べると費用もかからず手続きも一番簡単です。また、作成が自分1人で可能なので、遺言内容を他人に秘密にしておけるという長所もあります。しかし、反面、法定要件不備のために無効となる危険性があります。
公正証書遺言
従来、司法書士がお勧めしていた方式が、公正証書遺言です。
公正証書遺言は、遺言者だけでなく公証人役場にも保管されるので、紛失や偽造のおそれのない一番確実な方法だからです。
作るときには費用がかかりますが、実際に相続の段階に入ったときは検認という裁判所が絡む手続きの必要がなくなります。
秘密証書遺言
遺言については相続発生時まで一切秘密にしたいという人もいます。そのような人が書く遺言書が、秘密証書遺言です。
自分で遺言を書いて封をした後に公証人と証人2人以上の前に差し出します。遺言内容を知られずに済む、偽造・隠避の防止になる、遺言書の存在を遺族に明らかにでき、発見されないリスクがなくなるといった長所があります。
反面、自筆証書遺言と同様、内容に関して専門家のチェックを受けるわけではないので不備があれば無効となる危険性があるほか、本当に遺言を書いた方の意図通りの内容が実現されるかは保証がありません。
さらに、相続発生後は検認という裁判所の関与も必要になります。
第4章 自筆証書遺言に関する改正
2020年7月1日から、自分で書いた遺言が法務局で保管してもらえるようになりました。
従来も自筆で遺言を書かれる方はいらっしゃいました。ただ、それらの多くは法律的に無効であったり、封がしてなかったり、封はしてあっても遺言と書かれていないがために遺言と気づかれないことがありました。
法務局保管の遺言は、作成時に法務局で本人確認がされているため、その言が偽造であるという争いは避けられるとともに、遺言書自体の紛失も起こらないため、安全な制度となっています。
この制度を利用すれば、紛失や偽造などの管理上の心配がなくなるだけでなく、家庭裁判所の検認が不要になります。
(1)遺言書保管制度の手続き
改正前は裁判所への検認が必要でした。ただ、その手続きを行う相続人の方は少ないという現実がありました。遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本などが添付書類として必要であり、結構な労力と費用がかかるからです。このような大変な手続きが、遺言書保管所で保管してもらった遺言書では、不要になるのです。
(2)自筆証書遺言保管制度の手数料
申請・請求の種別 | 申請・請求者 | 手数料 |
遺言書の保管の申請 | 遺言者 | 一件につき、3900円 |
遺言書の閲覧の請求(モニター) | 遺言者 関係相続人等 | 一回につき、1400円 |
遺言書の閲覧の請求(原本) | 遺言者 関係相続人等 | 一回につき、1700円 |
遺言書情報証明書の交付請求 | 関係相続人等 | 一通につき、1400円 |
遺言書保管事実証明書の交付請求 | 関係相続人等 | 一通につき、800円 |
申請書等・撤回書等の閲覧の請求 | 遺言者 関係相続人等 | 一の申請に関する申請書等又は一の撤回に関する撤回書等につき、1700円 |
(3)保管されている遺言書に関する遺言者以外の者に対する情報開示
【遺言書情報証明書と遺言書保管事実証明書の記載事項】
遺言書情報証明書 | 遺言書保管事実証明書 | |
遺言書の画像情報 | 〇 | × |
遺言に記載されている作成の年月日 | 〇 | 〇 |
遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍 | 〇 | × |
受遺者 | 〇 | × |
指定遺言執行者 | 〇 | × |
遺言書の保管を開始した年月日 | 〇 | × |
遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号 | 〇 | 〇 |
遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無 | × | 〇 |
第5章 遺言書作成における税法上の留意点
遺言書作成時に検討すべきこと
①もし現時点で亡くなったとした場合に子ども達にかかる相続税額の試算を行う
②相続で財産を受け取る人がそれぞれ相続税を支払うだけのお金はあるのか
③相続税の節税手法を検討する
④上記①~③を考慮して遺言書の作成を行う
(1)自社株がある場合
・会社の株価はもうかっているかどうかだけできまるわけではない
・非上場企業が自社株の評価額を知ると高額な評価に驚くケースが少なくない
・オーナーが会社に貸し付けをしている場合、それも相続税の計算対象になる
相続税の計算上、オーナー株主が持っている株の評価には、「純資産額方式」と「類似業種比準化方式」の2つの方法があり、企業の規模によって、これらを組み合わせて計算します。
このうち、「類似業種比準化方式」は、大まかに言えば、自分の会社が類似した業種で上場している会社と配当金額や利益金額、純資産額がどれくらい多いかを比較して株価を計算する方法です。
一方、「純資産額方式」は、会社の純資産額から株価を計算する方法です。このとき、単に現状の財務諸表の純資産を見るのではなく、含み益まで計算されてしまう点がポイントです。漠然と、「大した価値はない」などと思っていると、いざ相続が起きた後で多額の相続税がかかってしまい、後継者を困らせる危険性があるのです。
また、遺言書を作成する中で、会社の後継者である長男に対して、「会社への貸付金も相続させる」と指定しておくとよいでしょう。
第6章 遺言書の内容を実現するための方法
内縁の妻など、相続人ではない人への遺贈には特に配慮が必要です。公正証書で作成し、信頼できる遺言執行者も選任しておきます。
「遺言書作成マニュアル」/日本法令
「相続と遺言と相続税の法律案内」/幻冬舎
「きちんとした、もめない遺言書」の書き方・のこし方/日本実業出版社
「生前対策まるわかりBOOK」(社)相続遺言生前対策支援機構
「遺言書保管制度の利用の方法」/日本加除出版株式会社
「ゼロからわかる相続と税金対策入門」/あさ出版