所有者不明土地の発生原因
所有者不明土地の弊害
所有者不明土地には公共事業や民間取引を阻害したり、管理不全に起因する環境悪化をもたらしたりするなどの弊害があります。
所有者不明土地の発生原因
所有者不明土地は相続登記・住所変更登記の放置、変則型登記の存在等によって発生します。
- なぜ相続登記は行われないのか?
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以下の理由が考えられます。
①相続登記の申請は義務とされていない。
②遺産分割に期間制限がないため、相続発生後に遺産分割がなされないまま遺産共有状態が継続し、数字相続が発生した場合の権利関係が複雑化する。
③価値の低い土地について、相続人はあえて相続登記をしようとは思わない。
相続登記等の申請の義務付け及び登記手続きの簡略化
1.所有権の登記名義人が死亡した場合における登記の申請の義務付け
- 所在者不明土地問題を解決するために、相続登記の申請が義務化されるが、どのような制度ですか?
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相続等による所有権の移転の登記が義務づけられ、申請義務違反者には、過料の制裁に関する規定が設けられました。
2.改正の内容
ア 相続登記の申請義務
相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなかればならないとされました(不登法76条の2第1項)。また、遺贈により所有権を取得した者も、同様です(同項後段)。
さらに、法定相続の割合による相続登記申請後に遺産分割が成立した場合には、当該遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければならないとされました(不登法76条の2第2項)。
イ 過料規定の追加
相続登記の申請義務違反の効果として、相続登記の申請義務の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の科料に処する旨の制裁が規定されました(不登法164条第1項)。
3.相続登記の申請義務を履行すべき期間の起算点
自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日からです(不登法76条の2第1項)。
「当該所有権を取得したことを知った日」とは
共同相続の場合は、共同相続人は相続分に応じて不動産の所有権を取得することになりますから、当該相続分に応じた相続登記の申請義務を負うことになります。したがって、相続登記の申請義務を定めた不登法76条の2第1項前段の「当該所有権を取得したことを知った日」とは、相続分の割合に応じて所有権を取得したことを知った日です。
- 共同相続人の一人が相続の放棄をした場合の起算点は?
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他の相続人は相続放棄者を除いた上で算定される相続分の割合に応じて所有権を知った日が「当該所有権を取得したことを知った日」となるものと解されます。
- 表題部所有者の相続人について、所有権保存の申請義務はありますか?
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そのような規定は設けられておりません。
なお、所有権保存登記の申請の義務化は見送られたものの、所有者不明土地問題の解決を図る見地から表題部所有者の相続人による所有権保存登記の申請を促す施策は別途講じられています。すなわち、表題部所有者の相続人の申請にかかる所有権の保存の登記を免税措置の対象に加えた改正租税特別措置法84条の2の3第2項が令和3年4月1日に施行されました。
4.相続登記等の申請義務に関する経過措置
- 不登法76条の2の施行日前に開始した相続について施行日後に所有権の移転の登記を申請する場合、相続人は同条の申請義務を負いますか?また、相続人であることの申出をすることはできますか?
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当該相続人は申請義務を負い、相続人である旨の申出をすることができます。
相続人である旨の申出制度の創設
1.制度の概要
相続人の申出により、所有権の登記名義人に相続が発生したこと及び当該登記名義人の法定相続人である蓋然性のある者(申出人)を報告的に公示する付記登記を、登記官が職権で行うものです。
⑴制度趣旨
相続人の申出により、所有権の登記名義人に相続が発生したこと及び当該登記名義人の相続人である蓋然性のある者を報告的に公示することにより、その申出人については登記申請義務を履行したものとして当事者の負担軽減を図る一方、当該不動産の所有者を捜索する手掛かりとなる事項を簡易に登記に反映させるべく創設されたのがこの制度です。
⑵制度の要点
ア 申出をすることができる者「所有権の移転の登記を申請する義務を負う者」
①相続により所有権をし得した者(特定財産承継遺言により所有権を取得した者を含む)
②遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者
イ 申出の効果
原則
相続等による所有権移転登記を申請する義務を負う者は、その申請義務の期間内に相続人出
る旨の申出をすることにより、その義務を履行したものとみなされます。共同相続人中の一部
の者が申出をした場合には、この効果は当該相続人のみに生じ、申出をしなかった他の相続人
には及びません。
ウ 申出後の遺産分割による登記申請義務
原則
相続人である旨の申出をした者は、その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、法
定相続分を超えて取得したか否かにかかわらず、原則として、当該遺産分割の日から3年以内
に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません。正当な理由がないのにその登記の申請
を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられます。
2.ご利用になられる場面
●遺産分割が難航している場合
●遺言の有効性について争いがある場合
3.申出の効果
- 共同相続人中の一部の者が申出をすれば大丈夫?
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共同相続人の中の一部の者がもうしでをした場合には、この効果は当該相続人のみに及び、申出をしなかった他の相続人には及びません。
なお、共同相続人のうちの一人が他の共同相続人からの委任を受けて、あるいはその使者となって、全員分について相続人である旨の申出をすることはできます。
共同相続人の一人による相続人である旨の申出と共同相続登記との比較
相続人である旨の申出 | 共同相続登記 | |
登記手続きの性質 | 相続人の「申出」に基づき、登記官が所要の調査を行った上で職権による登記 | 相続人の「申請」による登記 |
登記の形式 | 付記登記 | 主登記 |
登記事項(公示される内容) | 所有権の登記名義人に相続が発生したこと及び当該登記名義人の相続人である蓋然性のある者の氏名及び住所等 | 被相続人から共同相続人への所有権の移転及び各相続人の持ち分の割合 |
添付情報 | 登記名義人と申出人との相続関係を証明し得る戸籍謄本等を提供すれば足りる | 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要 |
手数料 | 未定 | 登録免許税 |
相続登記の申請義務を履行したものとみなされる者の範囲 | 申出をした相続人のみ | 共同相続人全員 |
当該登記後の遺産分割による所有権移転登記の申請義務への影響 | 法定相続分を超えて取得したか否かにかかわらず、登記申請義務が課される | 法定相続分を超えて所有権を取得した場合には、登記申請義務が課される |
遺贈による所有権の移転の登記手続きの簡略化
1.改正の概要
相続人に対する遺贈に限り、登記権利者が単独で申請することができることとされました(不登法第63条第3項)。
相続人である受遺者に対して遺贈による所有権移転登記の申請義務を課すのであれば、単独申請を認めて義務の履行を容易にすることが整合的と考えられたためです。
- 「遺贈」には特定遺贈と包括遺贈の双方が含まれる?
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特定遺贈と包括遺贈の双方が含まれます。
2.登記申請の義務化
遺贈による所有権の移転の登記についても相続登記と同様に申請の義務付けが行われました。
すなわち、所有権の登記名義人について相続人に対する遺贈の効力が発生した場合において、当該遺贈により所有権を取得した者は、自己のために遺贈があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなけらばならないこととされました(不登法76条の2第1項後段)。
3.過料規定
正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の科料に処する旨の制裁が規定されました(不登法164条第1項)。
法定相続分で相続登記がされた場合における登記手続きの簡略化
要綱案第2部第1-1
法定相続分で相続登記がされた場合における登記手続きの簡略化
法定相続分で相続登記がされた場合における登記手続きを簡略化するため、法定相続分での相続登記がされている場合において、次に掲げる登記をするときは、更生の登記によることができるものとした上で、登記権利者が単独で申請することができるものとし、これを不動産登記実務の運用により対応するものとする。
①遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記
②他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
③特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記
④相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記
所有権の登記名義人についての符号の表示
所有権の登記名義人についての符号とは
所有権の登記名義人が死亡等により権利能力を有しないこことなったと認めるべき場合に、登記官が職権でその旨を示す何らかの符号を登記記録上に表示する制度です。